キョウト・スタイル 12月号

伝統を受け継ぐというコト キョウト・スタイル

Kyoto lifestyle connection キョウトからはじまる美しいくらし

伝統や文化を受け継ぐ事を生業とする若い世代を紹介します。vol.01

円山公園南「西行庵」庵守 花輪嘉泰さん(36)

円山公園から高台寺へ続くねねの道は、観光客がひっきりなしに訪れる、京都の王道ともいうべきスポットだ。だが、道を一歩それると、それまでの喧噪がまるでウソだったかのような、静けさに包まれる場所がある。緑の木々に囲まれ、その中から少し顔を覗かせる茅葺きの庵。それが西行庵だ。この場所は西行法師終焉の地として伝えられる。その西行法師の御霊は、今も庵守によって手厚く祭られている。その庵守を務めるのが花輪嘉泰さんだ。

「日々ご供養として、お手前にのっとった献茶・献香を差し上げる。それが庵守の勤めです。そうは言いましても、平安の歌人として様々に影響を与えた偉人。その方に一服差し上げる事は、想像以上にとても大きな緊張とプレッシャーを強いられますね。ある意味、滅私奉公ですから。」

幼少よりお稽古にはげみ、その光景を間近に見てきた花輪さん。だが、自身が庵守となるまでには、様々な紆余曲折があった。
「自身は、豊臣政権の五奉行の一人、長束正家の十四代目に当たります。関ヶ原後に秋田に落ち延びそこからこの地に腰をすえ花輪姓を名乗るのは、明治以降の話です。子供時代に友達のおばあちゃんなんかに、その話をしますとね『ほんなら、あんさん他人(よそ)さんどすなぁ〜』と真顔で言われることがしばしばで。京都人として認められないのがショックでしてね。それがトラウマになって、京都嫌いになったんですよ。」
京都の時間的基準は、応仁の乱…。それ以後の事象は、まだまだ新参者の部類だと。そのような話は、京都では非常によく聞く話だ。
「学生時代の一時期は、そういうものをすべて否定したくなって、音楽の世界にどっぷり。LAにギター留学をしようと思っていたくらいですから(笑)。それは叶いませんでしたが、夢が覚めて、やっぱり京都に気持ちが落ち着いたわけです。その頃に京都で、数々の刺激的な出会いがありまして。京都という土地は、個性的で強烈で。すごい場所なんだ、という事を再認識しました。結局京都のことを自分は何も知らなかったんですね。それから猛勉強です。また、そこで出会ったのがジャズなんです。」

庵を守る一方で、テナーサックスのプレーヤーとしても活躍する。対極にある世界を行き来するうち、そのような中から自分なりの新しい価値観が生まれた。それを体現しているのが、献茶の際だという。普通お手前は、流儀により作法が異なり、厳格にその所作が求められる。花輪さんのそれは、流儀を踏襲しながらも、より機能的で美しい流れ、所作を追求するための、独自アレンジを加えたスタイルとなっているのが特徴だ。 「かといって、メチャクチャに何でもありとは違います。伝統や歴史を伝え、守る事は気楽にできるものじゃありません。かたくなであるべきですよ。丁寧にやって、やりすぎるということはないのですから。それを極めようとすると、結局自分流というものが出来上がってくるのだと思います。でも。やればやるほど、わからなくなってくる。それが正直な気持ち。達観することなど、あり得ませんよ。それが伝統文化の世界ではないでしょうか。」

何も変わらず、無事に。静かに、ひっそりと西行庵を守り続ける。そして、茶人が吹くサックスプレーヤーとしての活動、その両者をバランスよく貫いていくこと。それが花輪さんの願いなのだとか。

西行法師:俗名は佐藤義清。鎌倉時代初期にかけての歌人。23歳で出家の後、新しい感覚で和歌を詠み、名歌を数多く残した。特に恋歌、雑歌など、自由な 詠みクチ、豊かな情感表現に優れ、後世の和歌はもちろん、文学形成にも多大な影響を与えた。

西行庵
京都市東山区円山公園音楽堂南
電話075-561-2754

通常拝観は、一人3000円(2名以上で予約)10:00〜17:00 「浄妙庵」にてお手前の一服をいただけるほか、母屋および桃山時代の名席「皆如庵」を詳しく案内してくれる。また、その他に朝茶体験も可能。西行法師への献茶・献香のお相伴を預かるという趣向で、すがすがしい気分の中お茶を楽しめる。「皆如庵」も見学できる。一人5000円(2名以上で予約)6:00〜8:00
http://www.kyotoguide.jp/saigyoan/