京都の伝統工芸を語るとき、京焼(=清水焼)の存在は欠かせません。京焼は茶の湯の流行とともに、東山地域を中心に広がった焼物の総称で、華やかな色彩の色絵が大きな特徴です。「真葛窯」は、そんな京焼の窯として代々続く名家。当主六代目宮川香斎氏の長男として生まれた宮川真一さんは、伝統と格式を重んじる「真葛窯」の正統的なもの作りを継承しながら、焼物の新しい可能性を模索する陶芸作家としても活躍しています。
「もともと東山山麓には、焼物に相性の良い土があったといいますね。かつて円山公園一帯の地域を真葛ヶ原と呼んで、そこが発祥の地です。真葛焼は各宗匠や貴人、文人、数寄者達が望むお茶に用いる焼物を代々作ってきたという歴史があり、私自身も後継者としてそれらの歴史、技術はきちっと受け継いでいかなければなりません」。
子供の頃から窯が遊び場で、粘土をこねていたそうですが、思春期になると、それだけ慣れ親しんだモノへの反発があったといいます。「美大へ進学すると、伝統的な仕事に対しての抵抗が。何をやるにしても、古くさく窮屈な感じがしまして。お茶も大嫌いだったんですよ(笑)」。在学中、アメリカに留学。その時に、外から客観的に京都を見ることができたと言います。「焼物もそうですが、京都の伝統工芸というものには、歴史、文化の集積の中にきちっと体系だった一つの流れができていて。一つ一つに思った以上のていねいでレベルの高い仕事がありました。その姿を見た時、漠然と色と形で何かを表現したいと考え美大に進学したのですが、結果的にはやっぱり自分は焼物をやることがしっくりいくのだなぁと。家業が代々受け継いできた茶道具作りの技術を継承したいと思いました」。
しかしながら、家で日常扱っている華やかな焼物の一方で、土を焼くというそのシンプルな工程自体にも興味を持つようになります。
「同じ土でも釉薬の掛け具合や焼成温度、窯の焚き方などで、個性が違ってきます。その違いはどこなのか?色々試してみて、自分なりに焼くという世界を追求してみたかった。それが5年前から始めたパンのオブジェのシリーズです」。焼物もパンも、こねて焼いて。工程は一緒とのことから、パンの形をした素焼きの焼物と本物のパンをコラボレートさせるというユニークな作品を作りギャラリーなどで発表しています。「作品作りは試行錯誤の連続ですね(笑)。同じ窯で、焼物とパンを焼くのです。それを組み合わせて、一つの作品として仕上げます。パンは生ものですから、腐らないようニスを塗ったり。焼き方も色々工夫して。単純でシンプルだからこそ、さじ加減が難しいですね。ただ、そうやって好きなことに打ち込めるのも、基本となる家業があってのこと。そんな意味では、非常に恵まれた環境です。現在は一線を画して、全く別のものとして別々に作業していますが、今あれこれ模索していることが、将来的には相互リンクして、何か新しい形となって世の中に発信されれば最高ですね」。
パンのオブジェは、何気なくお皿におかれていたら、食べてしまいそうな本物そっくりの出来ばえです。伝統の反発から始まったという作家活動ということですが、土というベースは一緒。ロクロを回し真葛窯の仕事をしている時、パンの作品の話をしている時。宮川さんの表情は、どちらも楽しそうだったのが印象的でした。